コラム「人間と生活環境」第5回 『新型コロナウイルス感染予防対策は臭気対策にも!?』

No.5 2020年11月

光田 恵(大同大学)

 新型コロナウイルス感染予防対策として「三密を避ける」ことが有効と言われています。実はこの「三密を避ける」というのは、「臭気対策」の極意でもあるのです。三密とは、「密接(近距離での会話がある)」「密集(多数が集まる)」「密閉(換気が悪い)」ですが、この三密は、においが問題になりやすい状態でもあります。「三密を避ける」ことは、主な3つの感染経路(飛沫感染、接触感染、空気感染)を絶つことに繋がり、具体的には、「マスク」「距離の確保」「消毒」「換気」といった対策が取られています。

では、これらの具体的対策を住まいの臭気対策という視点で見ていきましょう。

(1)においにとっての「マスク」って?「距離の確保」は必要なの?

 においには、物体の表面にくっ付きその状態を保持する特性があります。また、物体へ移行し、溶け込み、物体を通り抜ける性質を持っています。例えば、食品などのように、においのあるものを保管する際に、「密接」「密集」という状態で一定期間貯留すると、におい移りという現象を起すことがあります。牛乳パックとみかんを一緒に貯留していた時に、牛乳から異臭がしたといった事例があり、測定してみると柑橘類の成分が検出されたことがありました。みかんの香りが、牛乳のパックを通り、牛乳に移ったことが原因でした。5μm以上の飛沫拡散防止にマスクは有効ですが、みかんのにおい移りの防止としては、ポリエチレンフィルムでコーティングされている牛乳パックですら、マスクの役割は果たせないようです。においが強いものと他のものとを「密接」して置く場合や、様々な食品を一緒に「密集」して置かざるを得ないときには、よりにおいを通しにくい食品用ラップやお菓子袋に使用されている素材(ポリ塩化ビニリデン(PVDC))などで覆うとよいでしょう。

(2)「消毒」は絶大な防臭効果!

 住まいのにおいの原因は、主に「微生物の働きによるもの」と「燃焼、加熱によるもの」です。微生物の増殖条件は、栄養分、温度、水分(湿度)、酸素、pHで、各条件に対する微生物の応答は多様ですが、消毒用として使用されているエタノールスプレーでの除菌・殺菌は、微生物の働きによる臭気の発生を防ぐのにも大きな効果があります。住まいの嫌な臭気としてよく挙げられるのが生ごみ臭ですが、生ごみ貯留時に高温多湿になりやすい夏季などは、微生物の繁殖を防ぐため、エタノールスプレーを三角コーナーの生ごみに吹き付けるのも効果的です。汗が染み込んだ脱いだばかりの靴は、靴の内部にエタノールを吹き付け、1日以上乾燥させ、除菌・殺菌を行ってから下駄箱へしまいましょう。トイレの臭気の原因の1つに、便器や床に飛び散った尿臭があります。便器周りの床などは、特に念入りに拭き掃除をし、尿臭を感じた時には、エタノールなどを使用して除菌をするとよいでしょう。

(3)臭気対策は「換気」だけで万全か?

 ビル管理法の考え方に基づく必要換気量は、1人あたり毎時30m3とされており、この換気量が確保されていれば、いわゆる換気が悪い空間には当たらないと考えられています。では、臭気対策として必要換気量はどの程度なのでしょうか。調理臭や高齢者介護におけるおむつ交換時の臭気の必要換気量は、実験結果からそれぞれ約800m3/h、約3,500m3/hと求められています。ビル管理法の必要換気量と比較すると、一旦高濃度の臭気が室内に拡がってしまうと、人が不快に感じなくなるまでに、如何に多くの換気量が必要となるかが分かります。とは言え、換気は、臭気の濃度を低減するために最も基本的な方法であり、室内で発生したあらゆる臭気を同時に除去できる方法です。

  現状、新型コロナウイルス感染予防対策が1つの対策だけでは十分ではないのと同様、住まいの臭気対策も臭気発生源が明らかな場合には、局所換気(調理熱源の真上に設置されるレンジフードなど)で室内に高濃度の臭気が広がるのを防いだり、他の消臭・脱臭対策と併用したりし、いくつかの方法を組み合わせて臭気対策を行うことが必要なのです。

  1. 光田恵,磯田憲生,大迫政浩 1998:生ごみ臭の発生特性と影響要因に関する研究(第1報),空気調和・衛生工学会論文集,No.69,19/27.
  2. 竹内基展,光田恵,磯田憲生 1999:調理臭を指標とした必要換気量に関する研究,日本建築学会東海支部研究報告集,第37号,557/560.
  3. 棚村壽三,光田恵,小林和幸 2007:住宅厨房で発生する調理臭の拡散・捕集特性に関する研究,第31回人間-生活環境系シンポジウム報告集,69/72
  4. 板倉知世,光田恵,棚村壽三 2008:高齢者のおむつ交換時における排泄物の臭気特性に関する研究,日本建築学会環境系論文集,73(625),335/341

イラスト:浦川京子