コラム「人間と生活環境」 第10回 『生活を豊かにする木のある暮らし』

No.10 2021年6月

萬羽 郁子(東京学芸大学)

 日本の国土の約3分の2は森林で覆われており、現在、その森林資源は本格的な利用期を迎えています。森林大国である日本では、古来より生活の様々な場面で木を使い親しんできました。その一方で、安価で大量に手に入れることのできる外国産材の利用が増えたことで、日本の木材自給率は2002年まで減少傾向にあり、森林整備のための間伐材の有効活用が課題となっていました。地域材を活用する木材の地産地消は林業や地域の活性化に繋がります。また、木を植える→手入れをする→育った木を伐る→利用する、という森林の持続的なサイクルを保っていくためも、木材を適切に利用していくことはとても重要なことなのです。

 現在、木材を利用することの意義を広め、木材利用を拡大していくために、林野庁を中心に学校、オフィス、家庭など様々な場面における国産材製品の利用が提案されています。幅広い世代が日々の生活で使用する木製品の一つに食器がありますが、木製食器は触り心地や食器の当たる音、食器から伝わる温度、見た目の評価が高いことや、木製食器を使用することでより温かみのある雰囲気になることが明らかになっています。磁器やガラス、メラミン樹脂製の食器に比べて非常に軽く、重さについては好みが分かれ、使用・管理上の注意点もありますが、気を付けながら使用することで物を大切にする気持ちを育むことに繋がります。

 また、住宅など一般建築物への波及効果を含めた木材需要の拡大をねらいとし、2010年には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。これをきっかけに、木材の特性・利用の意義を整理し情報発信していくために、木質空間の健康・快適性に関する研究がより盛んに行われるようになりました。これまでの研究により、内装木質化空間は「温かみがある」「落ち着く」印象であることが明らかになっています。また、木材は断熱性が良く、衝撃吸収力に優れていることから、触感が良いことも特徴として挙げられます。さらに、内装木質化空間では木の香り成分が多く検出され、そのにおいの良さやにおいによるストレス緩和効果も期待されています。これまでに、疲労や混乱などの気分状態を回復する効果、作業負荷後に疲労感の回復を促す効果、睡眠の質の改善効果などが報告されています。

 このように、木には見た目やさわり心地、におい、音など、様々な魅力があります。生活の中に木材や木製品を取り入れ、五感を使って木の良さを感じながら生活をしてみるのはいかがでしょうか。

【参考文献】

  1. 萬羽郁子,東 賢一,鍵 直樹 2020:木製食器の使用性評価に関する研究,第44回人間-生活環境系シンポジウム報告集,125/126.
  2. Bamba I, Azuma K. 2016: Psychological and physiological effects of Japanese cedar indoors after calculation task performance, Journal of the Human-Environment System, 18(2), 33/41.
  3. 萬羽郁子, 東 賢一ら 2018:室内環境測定と保護者・保育士を対象としたアンケート調査による保育所の内装木質化の評価 -大阪府産の無垢ヒノキ材を対象として-,人間と生活環境,25(2),93/105.

イラスト:井本 雅乃