コラム「人間と生活環境」 第15回 『「こたつ」の話 〜古くて新しい「こたつ」採暖〜』

No.15 2021年11月

渡邊 慎一(大同大学)

 前回に引き続いて「こたつ」のお話です。

 「こたつ」は部屋全体を温める暖房器具ではなく、「こたつ」の中に入れた足だけを温めるもので、採暖器具に分類されます。この伝統的な採暖器具「こたつ」はどのくらい暖かいのでしょうか? 大真面目に実験をしてみました。

 室温が11℃、14℃、17℃、20℃の部屋で、被験者に電気こたつに入っていただきました。「こたつ」の条件は、赤外線ランプの調節つまみの「強」「中」「弱」「切」の4段階です。

 では結果を見てみましょう。室温11℃で「こたつ」を「弱」や「中」で使った場合、「こたつ」の温熱効果は約7℃でした。したがって、室温11℃+7℃で、室温が約18℃の部屋にいるのと同じ程度の暖かさが得られるということになりました。そして、「こたつ」を「強」にすると温熱効果はさらに大きくなり、約10℃でした。室温11℃+10℃ですから、室温21℃の部屋にいるのと同じくらいの暖かさということが分かりました。室温11℃は結構寒く感じますが、室温21℃なら寒くありませんね。

 では、「こたつ」を「切」で使うとどうでしょうか? 面白いことに温熱効果は約2℃ありました。「こたつ」を切っていても少し暖かくなるのです。これは、私達の身体から熱が出ていること、そして、その熱を「こたつ」の掛け布団が逃さないで保温してくれるお陰です。

 このように「こたつ」を使うと確かに暖かくなるのです。

 「こたつ」なんて古臭いと思われるかもしれませんが、研究では「こたつ」は、局所加温システム、個別制御システム、タスクアンビエント空調などに該当します。局所加温とは、文字通り身体の一部分を温めて快適を得ようというシステム。個別制御とは、部屋にいる全員を対象とするのではなく、一人ひとりが自分で快適な環境を作ろうというシステム。そして、タスクアンビエント空調とは、部屋全体を均一に暖かく快適にしようとするのではなく、部屋全体は不快にならない程度に空調しておいて、人がいるところだけ、その人が快適になるようにきちんと制御しましょうというシステムです。これらのシステムは最先端のオフィスビルなどに採用されています。「こたつ」はこれらを兼ね備えた優れモノなのです。「こたつ」って、古いようで新しいのです。

 最後に。断熱性能がほとんどなく、電気もエアコンもなかった時代、部屋全体を暖めることはできませんでした。そのような環境で「こたつ」は使われ、部屋は寒い、でも炬燵の中だけは暖かいという「熱的に不均一な時代」でした。そして現在、科学・技術が発展し、住宅の断熱性能は向上し、エアコンも利用できるようになりました。「熱的に均一を求める時代」と言えると思います。もう「こたつ」なんていらない時代になったのかもしれません。しかし、私はこれからの時代は、しっかりとした断熱性能と高性能な空調設備が整備された不快のない室内に、暖かい「こたつ」を置いて、「熱的な不均一を楽しむ時代」になるのではないかと考えています。家の中に、暖かいところもあれば、そうでないところもある。居住者は自分が望む環境を選んで暮らすのです。家族や友達と「こたつ」で暖をシェアすることの居心地の良さは、これからますます大切になると考えています。

【参考文献】

  1. 渡邊慎一,堀越哲美,三好結城,宮本征一,水谷章夫 1997:炬燵採暖が人体に及ぼす熱的影響とその評価方法,日本建築学会計画系論文集,62(497) ,39/45.
  2. 渡邊慎一,堀越哲美,三好結城,宮本征一 1997:炬燵使用時における人体の熱的快適性の検討とその温熱効果の定量化,日本建築学会計画系論文集,62(497),47/52.
  3. 渡邊慎一,堀越哲美,石井仁,鈴木健次,宮本征一 1999:炬燵と電気カーペットの併用が人体に及ぼす影響と温熱的効果:青年男子の場合,日本建築学会計画系論文集,64(515) ,63/68.
  4. 渡邊慎一,堀越哲美,宮本征一 1996:炬燵採暖が人体に及ぼす影響とその評価方法,人間-生活環境系シンポジウム報告集,20,133/136.

イラスト:浦川 京子