コラム「人間と生活環境」 第18回 『働くクルマの温熱環境「宅配トラック』

Vol.18 2022年2月

松永 和彦(神奈川県立産業技術短期大学校)

 乗り物の中で身近なクルマの温熱環境について紹介させて頂きます。クルマは移動するため安全で環境に優しいことが求められます。具体的には、軽量で剛性の高い躯体と視界確保のための装備が必要です。そして自家用車、長距離トラック、宅配トラック、公共機関であるタクシー、路線バス、観光バスといったようにクルマの大きさ、乗る時間、乗る人数などが様々です。

 クルマの室内容積は、一般的な乗用車で2.5m3、小型トラックで1.5m3、路線バスでは60m3を超えるものまで様々です。乗車時間は、路線バスの乗客の様に5分~10分程度から長距離トラックの運転者の様に数時間連続して運転し休憩時間も車室内で過ごしほぼ一日中車室内に滞在することもあります。また、宅配トラックの運転者の様に短時間の運転と車を降りて荷物の搬送を繰り返すなど様々です。また乗る人数も乗用車では運転者一人から乗客を含めた数名程度から路線バスの様に運転者と乗客0名から50名程度と大きく変わるものまで様々です。

 乗り物の室内環境の中で人の健康と快適性に大きな影響を与えるものが、温熱環境と空気質環境となります。特に真夏日・真冬日は車外と車内の温度が劇的に変わり、その温度変化が運転手の身体に影響を及ぼし交通事故の原因となることが考えられます。

 今回は、冬場の宅配トラック業務を再現し、被験者を用いて温冷感申告と生理データを収集し温熱環境変化が、身体の生理反応と内分泌の変化に及ぼす影響を紹介します。

 被験者は20歳代から40歳代の健康な成年男性6名。試験方法は、宅配トラックを運転し暖房の利いた車室内から停車して寒い屋外へ出て荷物を配送する作業を再現しました。

 その結果、外気温度7℃日射なしの寒い屋外歩行をすると同時に食道温が上昇し、20℃程度の暖かい車室内戻ると同じ程度低下するといった中枢温の変化が認められました。このことは、車室内温度調節だけでドライバーの深部温の恒常性を保とうすることは難しいと考えられます。また、寒冷環境では静脈還流量が増し、中枢温の上昇とホルモンの変化も引き起こされていました。 これらの方策として皮膚温の変化が激しい、前額、手および下肢をそれぞれ帽子、手袋および靴下で保護した形で運転をし、さらにその状態で適切な車室内温度設定をする必要があると考えられます。

【参考文献】

  1. 松永和彦,田島文博,三井利仁,小林亜未,木下利喜生,藤田恭久,中田朋紀 2014:冬季トラック宅配業務における人体生理反応及び内分泌動態の変化,第38回 人間−生活環境系シンポジウム報告集,145/148.
  2. Kazuhiko Matsunaga, Fumihiro Tajima, Yoshi-ichiro Kamijo, Toshihito Mitsui, Ami Kobayashi, Takio Kinoshita, Yasuhisa Fujita, Tomoki Nakata 2016: The Influence that Home Delivery Work Gives the Human Body for the Physiological Reaction and the Internal Secretion Changes, Proceedings of The Fifth International Conference on Human-Environment System,2016.

イラスト:浦川 京子