コラム「人間と生活環境」 第23回 『暑い夏を乗り切るために 〜自然通風で過ごせるのは何度ぐらいまで?〜』

Vol.23 2022年8月

齋藤 輝幸(名古屋大学)

 梅雨が明けると暑い夏の時期になりますね。屋外がとても暑いときは窓を大きく開けて通風しても涼しく過ごすことはできませんが、ある程度までの外気温であればエアコンで冷房しなくても通風だけで涼しく感じます。では、どのぐらいの温度で、どの程度の風速であれば過ごすことができるでしょうね。

 室温と同じ温度の風が全身に当たるような気流発生装置を用いて被験者実験を行ったところ、気温28℃では平均風速0.3~0.5m/s程度で、30℃では0.4~0.6m/s程度で快適側に評価されました。その後、同じ気流発生装置を用い、6人の男性被験者に対して風速を徐々に速くする実験を行ったところ、気温32℃では平均0.7m/s、気温34℃では平均0.87m/sの風速が選択されました。

 また、12名の女性被験者によるモデルハウスを用いた実験では、自然通風により室内で0.6m/s以上の風速があれば気温32~34.5℃でも80%の人が快適に感じました。さらに別の住宅で男性被験者12名、女性被験者16名を用い、住宅内を数分ごとに移動しながら温熱環境を評価したところ、PMV値が1.7程度(*)で80%の被験者が許容できると回答しました。

* PMV値が1.7というのは、例えば気温と平均放射温度が31.5℃、相対湿度50%、風速1m/s、着衣量0.45clo、代謝量1.1metで安静にしている状態です。平均放射温度は人体などが「周囲の表面から受ける熱放射の影響と同等の放射熱量を与える黒体の温度」ですが、壁や天井・床など周囲表面の平均温度で近似されることもあります。

 これらの結果は学生被験者によるものですので、気温が高い時には適度に発汗し、気流によってその汗が十分に乾くという状態で得られた結果です。また室内の実験ですので直射日光は当たっておらず、滞在時間も1時間程度で、あまり長い時間、身体に風が当たり続けていたわけではありません。そのため、高齢者や子供、体調の悪い時や十分な水分を取ることができない時などにこれらの結果を当てはめることはできませんが、健康な状態で適度な風速の風があれば意外と高い気温でも過ごすことができそうですね。熱中症にならないように気を付けながら、朝方や夕方などは時々窓を開け、通風だけで過ごすことができるか確かめてみてはいかがでしょう。

【参考文献】

  1. S. Kuno, G. Xu and T. Saito 1997: Pleasantness of intermittent wind in a hot season, Proceedings of Healthy Buildings / IAQ’97, Vol.2, 29/34.
  2. G. Xu, S. Kuno, S. Mizutani and T. Saito 1996: Experimental study on physiological and psychological responses to fluctuating air movement, Proceedings of the 7th International Conference on Indoor Air Quality and Climate, Vol.2, 547/552.
  3.  徐国海, 久野覚, 水谷慎吾, 齋藤輝幸 1999: 変動風環境における生理・心理反応に関する研究, 暑不快環境から気流のある中立環境へ移動した場合の温冷感実験, 日本建築学会計画系論文集, 第519号, 47/53.
  4. 徐国海, 久野覚, 田中将彦, 齋藤輝幸 1999: 暑不快環境から気流のあるやや暑い環境へ移動した場合の生理・心理反応に関する研究, 日本建築学会計画系論文集, 第524号, 37/44.
  5. Teruyuki Saito, Satoru Kuno 2012: Effect of Air Movement in Housing during Japanese Summers, Proceedings of 7th Windsor Conference: The changing context of comfort in an unpredictable world, USB9p.
  6. 岸紗也子, 齋藤輝幸 2014: 戸建住宅における自然通風有効利用のための窓開放方法に関する研究, 第38回人間-生活環境系シンポジウム報告集, 73/76.
  7. 岸紗也子, 齋藤輝幸, 久野覚 2018: 窓開放面積の違いによる住宅の通風利用効果に関する研究 -南からの卓越風を有する場合の検討-, 人間と生活環境, 第25巻, 第2号, 117/124.

イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、久米 孝典(名古屋工業大学)