コラム「人間と生活環境」 第27回 『建設作業中の熱中症対策 〜ファン付き作業服の効果〜』

Vol.27 2023年2月

桒原浩平(室蘭工業大学)

 皆さんはファン付き作業服を着たことがあるでしょうか?近年の暑さの影響で、屋外での農作業や建設現場などでの着用が増えているようです。ファン付き作業服は、作業上着の腰部に二つのファンを付け、バッテリーでファンを回すことで、腰部から風を吸引し、襟や袖口から空気を排出するものが一般的です。着用するとどのような効果があるのでしょうか。実際の型枠大工さんや鉄筋工さんに34℃、50%に設定された人工気候室で型枠組立や配筋等の模擬作業を行ってもらい、皮膚温や汗の蒸発量などを測定した結果があります。長袖Tシャツの上にファン付き作業服を着た場合と、長袖Tシャツのみ着用した場合を比較しました。風の当たる部位である背部や腹部の皮膚温は、ファン付き作業服を着た方が低くなり、快適であるという申告も得られました。また、ファンの気流により汗の蒸発を促進することが期待されますが、蒸発量に差は見られませんでした。但し、着衣に残る汗の量は、ファン付き作業服を着た方が少ないため、熱い環境で作業を行ってもTシャツがびしょ濡れになることは無さそうです。

 次に、夏季の建設現場でもファン付き作業服を着た作業員と長袖Tシャツのみ着用した作業員の皮膚温や飲水量、脱水量などを測定しました。胴体部の皮膚温や快適感は人工気候室の実験と同様の結果が得られています。またファン付き作業服を着用しなかった場合、WBGT(気温や湿度等から計算される環境温度)が高いほど発汗量が多くなりました。大学生の運動部員であればWBGTの上昇とともに飲水量も増えますが、建設作業員はWBGTが上昇しても飲水量が増加しないため、建設作業員の脱水量は大学生の運動部員よりも多くなる結果でした。一方、ファン付き作業服を着用すると、飲水量は変わらなかったものの、WBGTの上昇に伴う発汗量の増加を抑制することができたため、脱水量も非着用時に比べ約半分に低減しました。

 以上のように、建設現場でのファン付き作業の着用は、脱水量の低減に有効であることがわかりました。ファン付き作業服を着用するだけでなく、休憩中、作業前を含めて作業中の飲水量を増やす工夫を行えば、より効果的な熱中症対策になりそうです。

【参考文献】

  1. 山崎慶太,菅重夫,濱田靖弘,桒原浩平,朱楚奇,中野良亮,金内遥一朗,大前裕紀,小林明生,小林宏一郎 2017:ファン付き作業服が建設作業員の生理・心理反応に及ぼす影響に関する研究(第1~6報),第41回人間-生活環境系シンポジウム報告集,1/20, 31/34.
  2. 山崎慶太,菅 重夫,桒原浩平,濱田靖弘,朱楚奇,中野良亮,小林宏一郎,高橋 2018:人工気候室での模擬作業がファン付き作業服を着用した建設作業員の生理・心理反応に及ぼす影響,日本建築学会環境系論文集,83(748),543/553.
  3. 桒原浩平,山崎慶太,菅 重夫,小林宏一郎,濱田靖弘,高橋 直 2019:ファン付き作業服と作業時間帯が建設作業員の生理・心理反応に及ぼす影響(建設現場における実態調査その2),日本建築学会環境系論文集,84(756),151/159.
  4. 山崎 慶太,桒原 浩平,染谷 俊介,濱田 靖弘,小林 宏一郎 2020:夏季建設現場における飲水とファン付き作業服による脱水の低減に関する研究,日本建築学会環境系論文集,85(771),351/360.

イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、久米 孝典(名古屋工業大学)