No.1 2020年6月
高田 暁(神戸大学)
トイレの換気扇を回すと、トイレの中の汚れた空気が屋外に排出されます。ここで重要なのは、トイレから出ていったのと同じ量の空気が、室内空間からトイレへと入るということです。もし、そうでなかったら、トイレの換気扇を回し続けるとトイレの空気がなくなる、ということになりますが、実際にそうはなりません。教科書的に言えば、「質量保存則」が成り立っています。換気扇を回すと、たいていの場合、特に問題なく汚れた空気を追い出せます。
一方、トイレに窓がついている場合、注意が必要です。トイレ内の汚れた空気を外に出そうということで、窓を開けるとします。もし外からトイレに向かって強い風が吹いていると、窓からトイレに外の空気が入ってきます。外の空気が入った分、トイレから室内へと空気が流れます。つまり、トイレ内の汚れた空気が家じゅうに拡散することとなります。いうまでもなく、これは逆効果です。汚れた空気を追い出そうとして、逆に呼び込んでしまったという失敗例です。
トイレの例を挙げましたが、換気が原因で生じる建物内の問題に、私は、研究活動の中で、よくお目にかかります。結露やカビが発生する、冬に空気が乾燥しすぎる、空調の電気代が異常に高い、などの問題が生じている現場を調査し、その原因を探っていくと、換気の仕方を間違えているという例が多いのです。
やみくもに窓を開けたり、やみくもに換気扇を回すだけでは、よい室内環境とはなりません。どういう状態の空気をどこに流したいのかを考えること、また、どうすれば望み通りの空気の流れが作れるかを考えることが重要です。建物の設計のやり方にも改善の余地がありますが、生活者自身が何のために換気をするのかを考え、空気の流れを確認して換気をおこなうことで、特別にリフォームをしたりせずとも、生活環境をよりよくすることができるように思います。ティッシュペーパーの端を細く切って(幅5ミリ、長さ10センチくらい)割りばしの先につけて吹き流しを作り、空気の流れを確かめてみるとよいかもしれません。
【参考文献】
- 高田暁,今井悠喜,鉾井修一,小椋大輔,伊庭千恵美 2020:多数室換気解析に基づく室内環境の改善策の検討 高齢者介護福祉施設における冬期の室内環境に関する研究,日本建築学会環境系論文集,85(770), 249/258.
- 栗木孝輔,高田暁ら 2020:書庫の湿度制御に及ぼす換気の影響,日本建築学会大会学術講演梗概集.
- 今井悠喜,高田暁,鉾井修一,小椋大輔,伊庭千恵美 2018:高齢者介護福祉施設の室内環境の改善に関する研究 ―居住状態の建物における多数室換気解析―,第42回人間-生活環境系シンポジウム報告集,37/40.
イラスト:浦川 京子