会長挨拶

高田 暁(神戸大学)

2020年4月から人間-生活環境系学会の会長を仰せつかりました。

本学会は、人間と生活環境に関連する広い分野の専門家が集う、多様性の豊かな学会です。小規模ながら非常に活発な学会でもあります。活動の軸である年一回の大会「人間-生活環境系シンポジウム」には、会員の約半数が出席し、分野を越えて活発な討論が交わされ、研究上、技術上の交流が行われています。一方、機関誌として「人間と生活環境」(和文誌)、「Journal of the Human Environment System」(英文誌)を発行し、研究成果を国内外に発信しています。また、論文賞と奨励賞の選考を毎年行い、すぐれた研究者を表彰しています。さらに、若手研究者育成のための奨学金制度を設けています。

本学会のルーツである第1回人間-熱環境系シンポジウムは、1977年に開催されました。医学、被服学、機械工学、建築学、スポーツ科学等、多彩な分野の研究者が集まり、熱心な討論が行われました。その後も毎年、シンポジウムが開催され、議論される課題の拡がりに伴い、「熱環境系」から「生活環境系」へと名称を変え、1994年に「人間-生活環境系会議」という恒常的な学術団体となり、2003年には「人間-生活環境系学会」と改称して、一層の発展を目指してまいりました。本学会は、黎明期のシンポジウムの熱気に刺激を受けた先達の研究者・技術者の方々が、大学、企業、官公庁といった所属の壁や研究分野の壁を越えて、熱い思いで続けてこられたものです。

本学会の目的は、『人間と生活環境に関連する広い分野の知識や技術を有機的に結合し、人間-生活環境系として体系化を図り、健康で快適に活動できる生活環境の実現に努め、人々の生活の質の向上に貢献すること』(会則第2条)です。これまでに、本学会は、1) 身近な生活環境を人間の特性の視点から検討し、生理、衛生、住居、被服などの多方面の研究成果を有機的に結合すること、2) 地球上の様々な気候・地域・民族・生活様式の実態を把握した上で、多様な生活環境の評価を行うこと、3) 生活環境と地球環境の課題を切り放して議論するのではなく、システムとして広く体系的に把握すること、を意識して活動してまいりました。人間と生活環境について深く考究し、被服・寝具・住宅や建物・空調設備・自動車・まちや都市などに関する知識や技術を人間の側から見ることによって、新しい視点で人間と生活環境に関する学問体系・技術体系を構築し、人々の生活の質の向上に寄与することは、本学会の重要な使命です。これは、分野・所属・年齢といった壁を越えた有機的な研究交流や技術交流があって初めて可能になると考えられます。本学会がこれまで大切にしてきた「多様性からの創造」を一層深化させるべく工夫を凝らし、理事、評議員、会員のみなさまと力を合わせ、よりよい学会を目指して努力したいと考えております。何卒、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。