No.4 2020年9月
庄山 茂子(福岡女子大学)
着なくなった衣服を皆さんはどうしていますか。
2000年に循環型社会形成推進基本法が制定され、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の考え方が導入されました。衣料分野においては、アパレル企業の社会的責任(CSR)として、衣料品の回収・リサイクル活動がなされ、市民活動としても、古着バザーを行うなど様々な取り組みが行われています。しかし、衣料品のリサイクル率は、包装容器や古紙等に比較すると低い現状です。製品の多様性(形、色)や衣服素材の複合度の高さがその要因と考えられています。
衣料品の基となる繊維は、限りある天然資源からできていることや、ゴミとなった衣料品を焼却する際に発生するCO2の排出量等からみると、衣料分野における課題は大きいといえます。
衣服は、暑さや寒さをしのぐため、身を守るための道具から、集団に帰属する、他者から注目され賞賛される、最終的には自己実現を図る手段へと変化してきました。近年の衣服の消費行動では、「長く大切に着る」習慣が薄れ、大量消費による環境負荷等の課題がある一方で、衣服が着装者の心理や態度に影響を与えることが多くの研究で明らかになっています。おしゃれを楽しみながら持続可能な社会を目指した衣生活を送ることが求められます。
そこで、私たち消費者は、衣服の購入から廃棄まで計画的な衣生活を営むことが重要です。衝動買いせずに、長く着用できるか、自分の持っている他の衣服と組み合わせることができるか、自分に似合うか、自分の体型にあったサイズであるか等、慎重に検討して必要なものを購入しましょう。また、着用後は、取扱表示を基に正しい手入れをして大切に管理することや、サイズがあわなくなった衣服や綻びは修理・修繕することにも心がけましょう。自分でできない場合は、専門店を見つけておくと便利です。最終的に着ることができなくなった衣服を、ゴミとして処理するのではなく、どのような使い道があるか考えてみましょう。
そして、より安価な商品を購入したいという消費者のニーズは、農場や縫製工場等の過酷な環境で働く労働者たちが支えており、そのニーズが高くなるほど経済的にも社会的にも弱い立場の開発途上国や新興国の人々の貧困や健康被害を拡大させるという問題を認識することも大切です。
企業や学校で採用されている制服は、素材が統一され、一度に回収することが可能で多くの人が長く大切に着用しますので、循環型社会形成推進の一翼を担うものとして着目できそうです。
最後に、衣服の購入や廃棄が環境問題と関連していることを科学的に理解し、循環型社会形成に向けた意識を持ち行動しましょう。
【参考文献】
- 庄山茂子,石井菜生,加來卯子,栃原 裕 2018 : 行政事務職員の制服の着用ならびに衣生活に関する全国調査,人間と生活環境,25(1),43/51.
- 庄山茂子,御領園沙紀,加來卯子,栃原 裕 2019: 私服と制服着用勤務における大学職員の作業効率や心理の違いならびに他者からの印象評価,繊維製品消費科学,60(11),1025/1034.
- 庄山茂子,大谷紗友理,窪田惠子他 2017: 医療用ユニフォームの採用条件の違いが看護師の心理やチーム医療にもたらす効果,繊維製品消費科学,58(4),339/348.
- 庄山茂子 2016:「第3章 循環型社会を目指した衣生活」,小林光、豊貞佳奈子著『地球とつながる暮らしのデザイン』 木楽舎,120/125.
イラスト:伊藤 梨沙