No.7 2021年2月
宮本 征一(摂南大学)
1月下旬は二十四節気の大寒で、一段と寒さが堪える季節となってきました。今年は、新型コロナウイルスの感染を低減するために、積極的に換気をする家庭も多くなり、室温が低く寒く感じている人も多いのではないかと思います。人が寒さを感じる要因は、室温、湿度、気流、熱放射、代謝量、着衣量の6つの要因が挙げられます。寒さを軽減するためには、身体を動かしたり厚着をしたりすることもありますが、室温を高くしたり、空気の流れ(すき間風)を少なくしたりして、暖かさを得ているかと思います。最近では風邪予防のために加湿している家庭もありますが、加湿は寒さを多少緩和します。ただし、過度の加湿は結露してしまいますので、ご注意ください。このように、寒さを緩和するような調節や工夫をして生活していますが、熱放射については忘れがちです。
電気カーペットや遠赤外線ヒーターなどは、熱放射により暖を採る暖房機器ですので、熱放射がどのようなものかはイメージできるかと思いますが、室内空間には、意識されない熱放射が隠されているのです。それは、空間を構成する天井面、壁面、床面からの熱放射です。断熱性能が高い住宅の場合は、外気温の影響が小さくて壁温は室温と近い温度となりますが、断熱材が入っていない壁の表面温度は、室温よりかなり低くなってしまいます。窓ガラスには断熱材を入れることができませんので、窓ガラスの表面温度は特に低くなってしまいます。そのため、空気層を挟んだペアガラスの窓が普及していますが、壁面よりは表面温度が低くなってしまいます。
空間を構成する面からの熱放射は、平均放射温度(MRT)と表現されることが多く、MRTが3℃程度低くなると体感温度(SET*)で約1℃低くなります。また、冬を想定した室内空間では室温やMRTが体感温度に及ぼす影響は同程度となります。言い換えるならば、室温が1℃低くなっても壁面などの温度が1℃高くなれば、体感温度はあまり変わらないことになります。
冷放射による寒さを緩和するには、どのような対策をすればいいでしょうか?窓ガラス面は雨戸やカーテンを閉めることによって、床面はラグやカーペットの下に銀マットを敷くことで表面温度を下がりにくくすることができます。換気のために窓を大きく開けると室温が急激に低くなり寒く感じますが、壁面や床面の表面温度が室温と同じ程度であると室温が元の温度に戻る時間も短くなり一石二鳥となります。頭寒足熱という言葉を聞いたことはあるでしょうか?頭のほうを涼しく足元を暖かくすると心地よいとされています。しかし、暖かい空気は軽く天井近くに溜まってしまいますので、頭熱足寒という状態になってしまうことがあります。そのため、空気の温度を高くする対流型の暖房機器よりは、放射型の暖房機器である電気カーペットや床暖房などを用いて足元を温めるほうが、温かく心地よく過ごすことができるのではないかと思います。
【参考文献】
- 宮本 征一, 堀越 哲美, 崔 英植, 酒井 克彦 1999:床座人体における伝導および相互反射放射を考慮した作用温度に関する研究,日本建築学会計画系論文集,64(515),57/62.
- 高橋 優子, 宮本 征一 2010:熱放射パネルによるスカート着用時の下肢への放射熱が生理心理反応に及ぼす影響に関する研究,第34回人間-生活環境系シンポジウム報告集, 251/254.
- 崔 英植, 堀越 哲美, 宮本 征一, 水谷 章夫 1996:床暖房時の気温と床温が胡座人体に及ぼす影響に関する研究,日本建築学会計画系論文集,61(480),7/14.
- 宮本 征一 2001:床座姿勢における接触面温度分布と圧力分布との関係,第25回人間-生活環境系シンポジウム報告集, 153/156.
イラスト:浦川 京子