コラム「人間と生活環境」 第16回 『対馬の石屋根』

No.16 2021年12月

橋本 剛(筑波大学)

 直接的に、あるいは間接的にその土地や地域の気候環境と関連を持つ景観のことを「気候景観」と言います。今回は、気候景観の中から、長崎県の対馬で見られる「石屋根のコヤ」について紹介します。

 日本の伝統的な建物は木造であることが多いですが、木造建築の弱点の一つとして火災に弱いことが挙げられます。対馬では板倉のコヤに穀物や大切な家財道具を保管していたのですが、火災からコヤや収蔵物を守るためのデザイン手法として、石屋根の文化・技術が形成・発展されました。

 石屋根による防火には二つの効果があると言われています。一つ目は、屋根が燃えないことで火の粉を被っても燃えないこと。二つ目は、コヤが燃えた時には石の自重でコヤが潰れることで周囲への延焼を防ぐこと。

 火事は年中発生しますが、季節風が強く吹き空気が乾燥する冬季は火災や延焼の危険性が特に高くなります。そこで、現在でも石屋根のコヤが比較的多く残る対馬の久根田舎集落で、冬季の風環境を観測してみました。その結果、久根田舎集落における石屋根のコヤの配置パターンは大きく3種類に分類され、それぞれの配置パターンが風環境の異なる場所を選択することにより、久根田舎の集落空間構成が火災リスクマネジメントのデザインとして機能していた可能性のあることがわかりました。例えば、「コヤヤシキ」と呼ばれる群倉(同じ場所にコヤを集めて建てる立地形式)は、冬季に風上となる河川沿いの場所が選択されており、防火対策として合理的な配置がされています。

 伝統的な集落の景観や身近な生活景観を「地域の気候風土とどの様な関係があるのかな?」と考えながら観察的に見てみることで、新たな気付きや発見があるかもしれませんよ。

対馬の石屋根のコヤ
久根田舎集落の群倉。群倉の写真左手の住宅は比較的新しく、もともと群倉は集落の西端(冬季の風上側)に位置していました。

【参考文献】

  1. 橋本剛,小林久高,佐藤布武,今和俊,栗原広佑 2019:対馬における石屋根のコヤの配置に関する小気候学的研究,人間と生活環境,第26巻,第2号,101/112.
  2. 矢沢大二 1953:気候景観,古今書院.