コラム「人間と生活環境」 第17回 『日本人大好き!お風呂のはなし』

No.17 2022年1月

橋口 暢子(九州大学)

 日本人は大の入浴好きと言われます。特に、気温が低下する冬場は、好んでお風呂に入ります。そのお風呂の入り方も、諸外国とは異なり、熱い湯に、深い浴槽に肩まで浸かることが好まれ、この方法でないとお風呂に入った気がしないという人もいるくらいです。

 しかし、最近、ヒートショックという言葉が徐々に浸透し、お風呂が関与した事故が多く発生していることを耳にする機会も増えてきました。事故は、高齢者に多いこと、冬季に多いことが知られており、いくつかの調査から推定される入浴による事故死者数は、交通事故による死者数よりもはるかに多いと言われています。

 入浴事故の防止策としては、様々な実験研究から示されている根拠をもとに、湯温を下げる、長湯をしない、半身浴をしましょう!と警笛が鳴らされています。しかし、それまで好んで実施されてきた、熱い湯に、肩まで長く入る方法を、行動変容することはそう容易でないことも想像がつきます。以前、高齢者を対象に行った調査では、入浴中(後)に体調不良を経験した人、予防のための知識がある人は、入浴事故を防ぐために気を付けて入浴することができているようですが、事故を脅威として認識している人は全体の30%程度だったことがわかりました。一般には、日常的に行う入浴で、事故が発生することを身近な問題として捉えることの難しさの現れだと思います。そこで、考えられるのが、やはり環境からのアプローチ、すなわち、湯の温度が低くても、長湯をしなくても快適に入浴できる環境を整えることこそが肝要な手立てと言えるでしょう。具体的には、寒い冬は、脱衣室・浴室温度を20℃以上、高齢者の場合は、数度高い25℃に保つと安全に入浴できることが研究から導き出されています!暖房の方法は、長く続けられる自分に合った方法で良いと思います。また、温度計を設置して、意識するだけでも大きな一歩かもしれません。大好きなお風呂を、いつまでも楽しめるよう、入浴時の温熱環境を意識してみることから始めてみませんか?

【参考文献】

  1. 栃原裕,橋口暢子 2021:(総説)日本の冬季における高齢者の入浴死について,人間と生活環境,第28巻,第2号,53/64.
  2. Hashiguchi, N., Ni,F., Tochihara, Y. 2002: Effects of room temperature on physiological and subjective responses during whole-body bathing, half-body bathing and showering, J Physiol Anthropol, 21(6), 277/283.
  3. Tochihara, Y., Hashiguchi, N., Yadoguchi, I., Kaji, Y., Shoyama, S. 2012: Effects of room temperature on physiological and subjective responses to bathing in the elderly, J Human-Environment System, 15(1), 13/19.
  4. Ono, J., Hashiguch, N., Sawatari, H., Ohkusa, T., Miyazono, M., Son, S.Y., Magota, C., Tochihara, Y., Chishaki, A. 2017: Effect of water bath temperature on physiological parameters and subjective sensation in older people, Geriatr. Gerontol. Int., 17(11), 2164/2170.
  5. Nobuko Hashiguchi, Fumika Kinnou, Tomoaki Kozaki, Shigeko Shoyama, Akiko Chishaki, Yutaka Tochihara, Elucidation of factors that promote and inhibit preventive behaviour for fatal accidents during bathing in elderly Japanese, 8th Hong Kong International Nursing Forum, 2018.12.

イラスト:浦川 京子