Vol.24 2022年9月
齋藤 輝幸(名古屋大学)
いわゆるクールビズは日本の社会に定着してきましたが、それでも28℃の室温では暑いと感じることが多いですね。特に夏の屋外から建物内へ入った場合は不快に感じやすいと思います。そこで、一旦涼しい場所でクールダウンしてから執務を続けることが提案されていますが、その効果はいつまで続くのでしょうね。オフィスからまたすぐに涼しい部屋へ戻りたくなるのでしょうか。
28℃の執務室とは別に、やや温度を下げた採涼空間を設け、その快適性などについて調べた実験についてご紹介します。男性被験者を用いた実験では、33℃以上の屋外で30分間過ごした場合、26℃の採涼空間では30分以上の滞在が必要でしたが、24℃では20分程度まで短縮できました。また、外気温が33℃より低い場合は24℃の採涼空間へ5分の滞在で効果が得られましたが、28℃の執務室へ戻った際に一時的に不快感が生じる場合があり、5分よりもさらに短い滞在で十分である可能性が指摘されました。採涼空間の利用は一律ではなく、各個人の希望・判断に任せる必要があるようです。
次に男女各8名の被験者を用いた実験では、20分間の屋外歩行を行った後に執務室へ移動し、採涼空間では被験者が自由に扇風機を利用しました。その結果、採涼空間を利用しない場合は執務室において50分経過後まで不快側の評価が続きましたが、採涼空間で扇風機を利用することにより、男性は24℃で5分間、女性は24℃で10分間滞在すると、執務室へ戻ってから60分間、快適側に評価されました。また、採涼空間で被験者が選択した風速の平均は、男性0.64m/s、女性0.40m/sでした。オフィス全体を涼しくするのは多くのエネルギーを必要とします。また、暑い屋外から執務室へ戻る人に合わせて室温を設定すると、長時間室内にいる人にとっては必要以上に寒く感じられます。むしろ室内にずっといる人に合わせて室温を設定し、屋外から戻ってきて暑いと思う人には採涼空間でクールダウンしてもらってはどうでしょうね。
【参考文献】
- S.Kuno 2007: A New Concept of Air-Conditioning Systems Based on the Theory of Thermal Comfort in Transitional Condition, Proceedings of ISETS07, 1171/1174.
- Kaori Iwata, Yuko Matsubara, Teruyuki Saito, Satoru Kuno 2011: The Psychological Effects of Entering a Cool Room in Summer, ICHES2011, 205/210.
- Yuko Matsubara, Kaori Iwata, Teruyuki Saito, Satoru Kuno 2012: A study on using a cool room in summer – The effect of applying air flow in addition to controlling room temperature -, Healthy Buildings 2012, USB6p.
- 岩田香織, 松原祐子, 齋藤輝幸, 久野覚 2012: 夏期屋外から入室後における採涼空間利用に関する研究 第1報-男性被験者に対する生理・心理効果の検証, 空気調和・衛生工学会論文集, No.185, 1/9.
- 岩田香織, 松原祐子, 齋藤輝幸, 久野覚 2013: 夏期屋外から入室後における採涼空間利用に関する研究 第2報-屋外歩行後の採涼空間利用効果と設計手法検討, 空気調和・衛生工学会論文集, No.200, 1/9.
イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、久米 孝典(名古屋工業大学)