Vol.26 2023年1月
西尾 幸一郎(山口大学)
厚生労働省が2021年に発表した国民生活基礎調査によると、65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、単独世帯は28.8%にあたる742万7千世帯となり、今後もさらに増加していくことが予想されます。誰もが「おひとりさま」で老後を過ごす可能性があることも視野に入れて、人生設計を考えなければならない時代になりました。
地域社会を見わたすと、カルチャー教室で新しいことを学ぶ、サークル仲間と交流する、ジムで運動をするなど、老後に新しい趣味や生きがいを見つけて、充実した生活を送っておられる方も増えてきました。しかし、その一方で、一人暮らしの高齢者の精神的状況は、同居者のいる高齢者と比べて抑うつ傾向が高いことが指摘されており、閉じこもりや孤独死などが深刻な社会問題となっています。
高齢者の精神的健康には、個人的要因としては良質な睡眠や楽しいと感じる趣味活動があること、社会的要因としては友人との交流やソーシャルサポートが充実していること、そして、環境的要因では室内の光環境が良好であること1)などが関連していることが報告されています。これらの要因の中でも、光環境の改善は、カーテンや雨戸などを小まめに開け閉めすることなどにより、日々の心がけ次第で容易に実現できそうに思われますが、高齢者の単独世帯では難しい場合もあるようです。筆者らが一人暮らし高齢者500名を対象に行った調査2)では、カーテンや雨戸などの開け閉めを毎日行っていない方が14.2%もおられることや、精神的な健康状態が良好でない場合にその頻度が少ない傾向があることがわかりました。何事に対してもやる気が起きず、毎日、カーテンを開け閉めすることすら億劫になっていることも考えられます。
以前、私が話を伺った民生委員の方は、地域の一人暮らし高齢者宅の前を通りかかった際に、いつもそのお庭の手入れの状況を丹念に観察するようにされているそうです。今まできれいに整備されていたお庭が少しずつ荒れ始めてきたら、その家の方が家事をするのも辛くなったり、意欲が低下してきたりするのかもしれないと考えて、声かけやサポートを強化されるとのことでした。つまり、ここでは庭の管理状態が、高齢者の心身の状況を推し量るバロメーターとなっていると言えます。カーテンや雨戸の開け閉めの頻度についても同様に、地域の方が家の外からでも高齢者の見守りをし、心のコンディションを推し量るバロメーターになるのかもしれません。
【参考文献】
- 西尾幸一郎, 笹本康太郎, 柴田祥江, 松原斎樹 2019:冬期における在宅高齢者の健康関連QOLと住環境要因との関連,人間と生活環境,26(1),19/26.
- 西尾幸一郎, 笹本康太郎, 柴田祥江, 松原斎樹 2019:日本家政学会第71回大会研究発表要旨集,122.
イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、久米 孝典(名古屋工業大学)