Vol.31 2024年3月
渡邊慎一(大同大学)
近年、多くの人々がキャンプを楽しむようになりました。日本オートキャンプ協会によると、2022年のオートキャンプ参加人口は全国で650万人でした。昔は、キャンプは「年に一度家族で出かける特別なレジャー」でしたが、今では、気が向いた時にファミリーで、あるいは「ソロ」で出かける身近なレジャーとなりました。
キャンプになくてはならないものの1つが焚き火です。焚き火は、夜には灯りとなり、寒いときには暖も採れ、調理の加熱などにも活躍します。今回のコラムでは、そんな焚き火の暖かさに注目しました。焚き火にあたると暖かいことは皆さん経験していると思います。では体感温度は何℃上がるのでしょうか?
実際に、ある少年自然の家の営火場で焚き火を行って、熱環境を測定してみました。昼間に実験を行うと、焚き火の効果と太陽の効果も一緒に測定されてしまいますので、実験は日没後の夜に実施しました。薪はこの施設で販売されていた長さ35cmに切り揃えられた松を使いました。焚き火の組み方には色々な種類がありますが、この実験では15本の薪を使って「合掌型閉じ傘組み」に組んで着火し、2分毎に2本ずつ薪を追加して、1時間ほど焚き火を行いました。
その結果、焚き火から最も近い測定位置である1.5m離れたところで、体感温度(Standard Effective Temperature: SET, 標準有効温度, 単位: ℃) が4.8~6.7℃上昇することが分かりました。当然ですが、焚き火から遠くに離れるほど体感温度の上昇効果は小さくなり、4m以上離れると焚き火の効果はなくなりました。この実験では、焚き火に最も近い測定位置を⒈5mとしました。風向きによっては測定器が炎に曝されることを避けるためです。実際、寒いときにはもっと焚き火に近づいて、炎に手をかざして暖を採りますので、体感温度はもっと上がります。
また、もう1つ面白いことが分かりました。焚き火の方を向いている側の体感温度は上がりますが、背中側はほとんど上がりませんでした。これは、背中側には焚き火からの熱放射が届かないためです。当たり前のことかもしれませんが、実験によりデータで示されました。
ここに示した内容はあくまでもある状況における1つの結果です。焚き火の暖かさは、その時の気象状況(日射の有無、気温、湿度、風速)、焚き火の燃やし方(薪の樹種、本数、組み方)、人体側の条件(代謝量、着衣量)などによって変わりますのでご注意下さい。
【参考文献】
- Shinichi WATANABE, Yosuke HATANO, Jin ISHII 2023: Practical Study of the Effects on Thermal Comfort of a Campfire, Journal of the Human-Environment System, 25(2), 57/63.
- 渡邊慎一, 波多野陽介, 石井仁 2021: 焚き火によるUTCI上昇効果の実証的研究, 第45回 人間-生活環境系シンポジウム報告集, 171/174.
イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、久米 孝典(名古屋工業大学)