コラム「人間と生活環境」 第33回 『くつろぐ時の姿勢の話』

Vol.33 2024年7月

宮本 征一(摂南大学)

 日本の家屋は、玄関から床が一段高く下靴を脱ぐ風習があります。そのため、清潔な床であることが多く、床に直接座る床座位姿勢が用いられていましたが、明治以降の住生活では洋風化が進み椅座位姿勢も用いられるようになりました。

 居住空間でくつろぐ時の姿勢は、椅座位、床座位、臥位姿勢など様々な姿勢が用いられていますが、姿勢によって、接触する面積は、どの程度、異なるのでしょうか?

 体表面積に対する接触面積の比率ですと、立位姿勢では足の裏だけの接触となり1%程度ですが、床に座る姿勢では大腿部や臀部も接触するため胡坐姿勢では3%程度、立て膝姿勢では2%程度、投げ足姿勢では5%程度となり、床に寝る姿勢では背部や臀部などが接触するため仰臥位では9%程度となります。この接触面積比は、同じ姿勢であっても脚部の関節の柔らかさや肉付きなどの個人差により1~3%程度の差異が見られます。また、くつろぐ時に用いられる姿勢は、床材、年齢、性別によっても異なり、柔らかい材質のほうが、年齢が低いほうが、男性のほうが、接触面積が大きくなる姿勢を好む傾向があります。

 床に座っている姿勢で2~5%程度、寝ている姿勢でも9%程度しか接触面積比はありませんが、床暖房や電気カーペットなどを用いた暖房の場合は、床と接触している面からの受熱が大きく、温冷感に大きな影響を与えることとなります。

 接触面内の温度分布は、どのようになっているのでしょうか?気温や表面温度を測定することは容易に測定できますが、接触面内の温度はその接触面内に小さな温度センサーを入れる必要があり、接触面内の温度分布を測定する場合は、多数の温度センサーを面上に配置する必要があります。25㎜間隔に配置した温度センサー(熱電対)により得られた温度分布は、以下のような図になりました。接触面内に温度分布が見られ、大きな接触面では3~4℃の差が見られました。

 体重が掛かっている、いわゆる体圧が高いところのほうが温度は高くなるように見られます。そのため、体圧分布を測定してみますと、以下のような図になりました。接触面内の温度分布と圧力分布が同じような形状となり、圧力が高い点のほうが温度は高くなる傾向が見られました。

 くつろぐ時に用いられる姿勢は、無意識の内にその時もっとも心地よい姿勢が取られているかと思います。多くの場合、接触する面積が広く、圧力が過度に高くならないような姿勢となります。そこには、接触している材質の心地よさも含まれます。居住空間でくつろぐことができるように、人と接触する布地の表面の材質を夏と冬で替えてみると、生活が豊かになるかもしれません。

【参考文献】

  1. 宮本征一,辻幸伸,冨田明美,堀越哲美 1999:各姿勢における接触面積および接触面温度分布の測定,第23回人間-生活系シンポジウム報告集,156/159.
  2. 宮本征一,冨田明美,堀越哲美 2000:床座位を中心とした各姿勢における接触面積比の再現性に関する研究,日本建築学会計画系論文集第532号,23/27.
  3. 宮本征一 2001:床座姿勢における接触面温度分布と圧力分布との関係,第25回人間-生活系シンポジウム報告集,153/156.

イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、田代 翔馬(名古屋工業大学)