
Vol.37 2025年8月
岩下 剛(東京都市大学)
2018年のある日、旭川の高校の放送部の高校生から研究室に電話がかかってきました。「自分通っている高校の教室が暑いので、冷房の必要性をテーマにラジオ番組を作成するので、協力してほしい」という内容でした。話を聞くと、たしかに夏季の暑さは厳しいようでしたので、東京での冷房導入前後の教室内環境の変化に関する研究成果をもとに、計測の重要性の話をしました。その後、その高校の放送部のみなさんは「北海道の高校教室における冷房の必要性」に関するラジオ番組を作成し、コンクールに出品し、全国大会出場を果たし、大会会場である東京へ来るついでに、私の研究室にも訪問していただきました。
すでに、学校教室への冷房の導入が熱中症発生に及ぼす影響を調査していましたが1)、東京圏、大阪圏、名古屋圏というような大都市圏を対象としていましたので、より広い地域での教室内環境と熱中症との関係を調べなければならないと考え、都市単位ではなく「地域ブロック」単位で学校での熱中症発生について調べてみました2)。
地域ブロック単位の児童生徒数で教室内熱中症発生件数を除した熱中症発生率でみると、教室における各地域ブロックの熱中症発生率では、相対的に九州、四国、中国で高い傾向が見られました。また、一時的ではありますが、2017年度では北海道が最も高くなっていました。
教室における熱中症発生時の学習活動をみてみますと、教室では体育以外の授業時の割合が25~35%、文化的部活動時が18~34%、休憩時間時が18~25%となっています。北海道では文化的行事の割合が約18%であり、他地域に比べ高くなっていました。北海道の学校における文化祭の開催時期が7月に多いことも影響していると考えられます。私の研究室では上記の旭川の高校教室で、いままで継続してCO2濃度および温湿度の計測を行っています3)。そして2024年には、北海道立学校教室に冷房が設置されました。
学校体育館における熱中症発生をみてみますと、バドミントン部活動中の発生率が高いことがわかりました4)。室内気流を抑えるために窓開放がしにくいことが理由と思われます。一方、全国的に体育館の冷房化が進んでいます。熱中症対策および災害時の避難施設としての機能として冷房設備が設置されていますが、教室に比べけた外れの冷暖房費が必要となる大空間であるため、適切な断熱改修や稼働方法が望まれます。


【参考文献】
- 岩下剛 2015:中学校事故データを用いた熱中症リスクに関する検討、学校における事故と屋外気象条件の関係に関する研究 その3,日本建築学会環境系論文集,80(712),551/558.
- 岩下剛 2021:校環境における熱中症発生状況に関する調査研究 ―地域ブロック毎の熱中症発生状況に基づく考察―,人間と生活環境,28(2),99/105.
- 岩下剛 2023:旭川の高校教室における空気温熱環境計測 -夏季教室内温熱環境-,第47回人間-生活環境系シンポジウム報告集,193/194.
- 岩下剛 2025:熱中症はいつどこで起こるのか,体育科教育,2025年6月号,大修館書店,15/19.
イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、田代 翔馬(名古屋工業大学)