Vol.21 2022年6月
土川 忠浩(兵庫県立大学)
前回のコラムでは、温熱環境(暑さ寒さ)のバリフリーやユニバーサルデザインに関連することとして、ベビーカーの乗せられている乳幼児が夏の日差しの影響を受けやすいことについてお話ししました。今回は、車いすを使っている人たちやベビーカーに乗っている乳幼児に対する、夏季の地面などからの照り返しについてお話しします。
乳幼児もそうですが、車いすユーザーである頸髄損傷者や重度の脊髄損傷者の人たちも、極端な暑さ寒さは苦手です。四肢に不自由があることに加えて、暑さ寒さの感覚が極端に低下していたり、あるいはその感覚や体温調節が機能しなくなって暑くても汗がかけないことがあるからです。そうなると、周りの温度によって体温が変動してしまい、場合によっては命の危険に及ぶような深刻な事態になることもあります。
バリアフリーやユニバーサルデザインの普及により、このような人たちも社会的支援などを積極的に利用しながら、外出や社会活動の幅はひろがっています。一方で地球温暖化やヒートアイランドの影響もあって、夏の屋外での車いすユーザーやベビーカーの乳幼児に対する温熱環境は過酷になっています。さらに、このような人たちは、歩行している人に比べて身体が地面にぐんと近くなるため、地面からの照り返しで余計に暑くなると予想されます。
照り返しには、地面で反射する日射だけではなく、地面や周囲の建物などそれら自体からの熱線(熱放射)も含まれています。そこで、熱放射の影響を測定することができるグローブ温度計(黒球温度計)と、下側(地面等)からの放射熱(照り返し)を測定するために下側半分にしたグローブ温度計を使って簡易的に測定してみました。基本的な状況把握として、周囲の建物の熱的な影響が少ない、地面が芝生になっている広いグラウンドで測定してみたところ、下側からの熱放射も相当な量となっていることがわかりました。地面がアスファルトやコンクリートのような市街地では、照り返しの影響はもっと大きくなると予想しています。
このような車いすユーザー(障がい者、高齢者など)やベビーカーの乳幼児に対する夏季の日射や照り返しの熱的な影響の研究を進めていくことは、これらの人たちの熱中症や熱的疲労の予防のみならず、市街地などでのクールスポットの計画、障がい者スポーツでの暑熱対策など、温熱環境のユニバーサルデザイン化につながり、ひいては誰にとってもやさしいまちづくりにつながるものと考えます。
【参考文献】
- 土川 忠浩,近藤恵美,藏澄美仁 2014:車いす・ベビーカーに対する照り返し熱環境評価方法に関する研究,第38回人間-生活環境系シンポジウム報告集,人間-生活環境系学会,333/334.
- 土川 忠浩,近藤 恵美,藏澄 美仁 2015:車いす・ベビーカーに対する照り返し熱環境評価方法に関する研究-その2 地表面素材の違い・高さの違いによる検討,第39回人間-生活環境系シンポジウム報告集,人間-生活環境系学会,115/116.
- 土川忠浩,近藤恵美,藏澄美仁 2019:ベビーカーに乗車する乳幼児の日射投射面積率に関する研究,人間と生活環境,第26巻,第2号,87/92.
イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)