コラム「人間と生活環境」 第25回 『冬に活躍!薪ストーブのお話』

Vol.25 2022年10月

栗原 広佑(東北工業大学)

 暑い夏が過ぎ、これから気になってくるのが寒い冬の過ごし方。暖房費の節約もさる事ながら、カーボンニュートラルな社会の実現に向けて環境負荷の少ない暖房機器を選びたいものです。今回は、燃料に再生可能エネルギーである薪を使用する「薪ストーブ」のお話です。筆者らが山形県最上郡金山町で調査した結果では、薪ストーブは町全体の1割以上の住宅で使用されており、比較的新しい住宅の暖房機器として用いられている事例も少なくありません。

 住宅雑誌などで紹介されている事例を眺めると、「薪ストーブ1台だけで家中暖かい」といったコメントも見られます。それでは、実際に薪ストーブを使用した場合の室内温熱環境はどのようになるでしょうか。筆者らが測定した例では、薪ストーブ使用中の平均気温が約21〜25℃と、十分に暖かい室内温熱環境となっていました。薪ストーブはエアコンのように自動で温度を調節できないため、使用中の室内の最高気温は30℃を超える場合もあり、暖房中は半袖Tシャツで過ごしている家庭もありました。一方で、薪ストーブ1台で必ず家中全体を温められるかというと、これは住宅の間取りや断熱性能に左右されるため、一概にはいえません。むしろ隣の部屋との温度差が約20℃に達する事例もあり、ヒートショックに注意が必要となる場合もあります。他の暖房機器と比べ熱出力の大きい薪ストーブですが、その導入においては機器自体の出力に頼り過ぎず、住宅の間取りや断熱性能と併せて考える必要があるでしょう。

 さて、もう一つ気になる点が燃料となる薪の使用量についてです。薪の単位は一般的には㎥を用います。例えば直径が30cm、長さが3mの真っ直ぐな丸太があったとすると、この丸太の材積は約0.21㎥となります。それでは、実際に薪ストーブを使用している家庭では年間にどれくらいの薪を使用しているかというと、筆者らが調査した家庭では約10〜15㎥の薪を使用しているとの事でした。これは上記の丸太が約50〜70本必要という事になります。もちろん薪の樹種や薪ストーブの使用期間、薪ストーブ自体の燃焼効率にも左右されますし、筆者らが調査を行った事例は使用量が比較的多い部類に属すると考えられます。しかしながら、例えば年間に5㎥の薪を使用するとしても上記の丸太が約24本必要であり、それらを調達する手間や保管する場所の確保は容易ではないことが分かります。少なくとも、道端に落ちている枝を拾い集めて一冬の薪ストーブの燃料を確保するのは難しく、しっかりとした薪の調達先を確保することが、薪ストーブを暮らしに導入するためのポイントです。

 森林資源は再生可能な資源といえども、先人達が築いた資源として大切に使う必要があります。これらを無駄遣いしないためにも、暖房効率を高める住宅のあり方や薪ストーブの低燃費化が今後の課題といえるでしょう。

【参考文献】

  1. 栗原広佑,橋本 剛 2020:薪ストーブ使用時に形成される居間の室内温熱環境の実測調査 山形県金山町の「地域型住宅」を含む木造戸建住宅を事例として,日本生気象学会雑誌,56(4),145/163.
  2. 栗原広佑,橋本 剛,今 和俊 2019:山形県最上郡金山町における地域型住宅と薪ストーブ使用住宅の実態調査,人間と生活環境,26(2),75/85.

イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、久米 孝典(名古屋工業大学)