コラム「人間と生活環境」 第35回 『暗くなる前に反射材の着用を―ドライバーと歩行者の安全のために-』

Vol.35 2025年4月

小松 美和子(佐賀大学)

 交通事故は年々減少していますが、日本は海外に比べ、乗車中の交通死亡事故が少ないのに対し、歩行者の交通死亡事故は多い現状にあります。特に、夜間や薄暮時に交通事故は多く、ドライバーが歩行者に気づかないことが事故を引き起こす要因となっています。そのため、歩行者を交通事故から守ることが喫緊の課題です。

 また、超高齢社会により高齢ドライバーが増え、高齢ドライバーによる歩行者の交通死亡事故は減少傾向にありません。これは、高齢ドライバーの加齢に伴う身体機能の低下や、白内障や黄変化などによる視力機能の変化によることが考えられます。白内障は、40代から発症すると言われ、気づかないうちに視力が低下していることが考えられます。そのため、高齢ドライバーだけでなく、すべてのドライバーは視力に十分注意を払い、安全運転を心がけなければなりません。

 交通事故を防止する対策として、警察庁や各地方自治体では、「反射材」の着用を推奨しています。「反射材」は、車のヘッドライトなどの光源によって反射するため、反射材の着用により暗い場所で歩行者の視認性を高めることができ、交通事故防止に効果的です。現在では、様々な色や形状の「反射材」が市販されています。しかし、小中高校生を対象にした調査では、約8割が「反射材は、交通事項防止に有効である」と回答しましたが、日常的に使用している人は2割程度で、使用しない理由は、「面倒である」や「忘れる」などでした。

 そこで、簡単に着用できるリストバンド形状の5色の反射材を、「手首」、「足首」、「手首+足首」にそれぞれ着用した場合について、白内障と黄変化の症状を再現した擬似高齢者群と20代の若齢者群で視認性の違いを比較した結果、時速50㎞走行の場合の車の停止距離である40~50m地点において、両群の評価が「かろうじて見える」以上の条件を満たす反射材の色は、「イエロー」もしくは「グリーン」の反射材を「手首+足首」の位置に着用した場合でした。擬似高齢者群は、視力の低下により若齢者群よりも遠くが見え難かったことから、特に高齢ドライバーから歩行者を認識してもらうためには、歩行者は、反射材の色と大きさだけでなく着用位置の配慮も必要です。

 ドライバーは安全運転に努めることはもちろんですが、歩行者は暗くなる前に反射材を積極的に着用することが重要です。また、反射材の効果を再認識し、お互いが気をつけることが大切です。

【参考文献】

  1. 小松美和子,庄山茂子 2022:交通事故防止のための反射材活用に関する実態調査~熊本県内の小中高生を対象に~,人間と生活環境,29(1),11/20.
  2. 小松 美和子,大塚 玲奈,庄山 茂子 2022:高齢ドライバーによる交通事故防止のための反射材の検討,人間と生活環境,29(2),35/43.
  3.  小松美和子,大塚玲奈,庄山茂子 2022:交通事故防止のための反射材の検討-若齢者群と擬似高齢者群の視認性評価の比較-,人間と生活環境,29(2),63/73.

イラスト:石松 丈佳(名古屋工業大学)、田代 翔馬(名古屋工業大学)