コラム「人間と生活環境」第3回 『木々に守られた住まい -屋敷森から考える自然と共生する暮らし-』

No.3 2020年8月

橋本 剛(筑波大学)

 みなさんは、上の絵のような景観を見たことがありますか?あるいは、みなさんがお住まいの地域にこのような景観はないでしょうか?

 これは、屋敷森、屋敷林、宅地防風林などと呼ばれる農村景観です。出雲平野の「ツイジマツ(築地松)」、砺波平野の「カイニョ(垣入)」、仙台平野の「イグネ(居久根)」、長井盆地の「ヤシキバヤシ(屋敷林)」といった散居の景観が有名ですが、日本の各地で見られます。

 茨城県つくば市洞下集落には、南北に長い集落を囲むように連続した独特の屋敷森景観が形成されています。冬と夏に気候観測調査を行い、その環境調節効果を検証しました。冬の昼間に集落外で5m/s以上の風が吹いていたとき、集落の中では風速が1m/s以下になっていました。冬の朝に集落の外がマイナス10℃近くにまで冷えていたとき、集落の中はそれよりも5℃ほど暖かくなっていました。また、夏の昼間には木陰が暑さを緩和してくれることも明らかになりました。

 現代の高気密・高断熱住宅には屋敷森など必要ない、と思うかもしれませんが、冬に風を防いだり家の周りを暖めてくれる効果は暖房費の節約に繋がります。夏に家の周りを涼しくしてくれる効果は冷房費の節約に繋がります。屋敷森は家計にやさしいだけでなく、地球にやさしい暮らしを支えてくれる立派なインフラです。それに、このような日本の農村景観をこれからも大切にし次世代に継承していけたらな、と思いませんか?最近では家の庭に植える樹木が軽視されているようにも感じます。屋敷森の景観を愉しみ、屋敷森の昔の役割や現代にも役立つ機能を理解することで、身近な生活空間に緑を増やそうと思ってくれる人が増えてくれたらな、と思います。

茨城県つくば市洞下集落には、南北に長い集落を囲むように連続した独特の屋敷森景観が形成されています。
冬には防風効果で暖かく、夏には日射遮蔽効果で涼しく、暮らしを守る屋敷森。

【参考文献】

  1. 橋本剛,鈴木健次,長野和雄,石井仁,兼子朋也,堀越哲美 2010:冬季における連続した屋敷森が集落気候形成に及ぼす影響,日本建築学会環境系論文集,75(656),907/913.
  2. 橋本剛,遠藤皆美,今和俊,栗原広佑 2018:連続した屋敷森が夏季⽇中における集落気候形成に及ぼす影響,日本生気象学会雑誌,55(2),91/106.
  3. 遠藤皆美,橋本剛,栗原広佑,立川あゆ,伊藤梨沙 2017:茨城県南地域の屋敷森および生垣の暑熱環境緩和効果,第41回人間-生活環境系シンポジウム報告集,59/62.

イラスト:伊藤 梨沙