コラム「人間と生活環境」 第12回 『あなたが歩くのは日向の道?日陰の道?』

No.12 2021年8月

石井 仁(名城大学)

 目的地までの距離が等しい日向の道と日陰の道があります。日差しが強い夏の昼下がりに歩くとしたら、あなたはどちらを選びますか?あるいは、寒さの厳しい晴れた冬の午後に歩くとしたら?どちらを選ぶのかは人それぞれでしょうか。

 この疑問を解決するために適した日除けのあるペデストリアンデッキ(歩行者専用の高架歩道)がありましたので調査を行いました。晴れた日の正午過ぎにペデストリアンデッキの日向を選択した歩行者と日陰を選択した歩行者の人数を1年間にわたり調査しました。調査を行ったペデストリアンデッキは、往来が激しくても自分の意思で日向か日陰を選べることができる程度の利用者数です。

 この調査から6月の中頃から9月の終わり頃まで、多くの歩行者は日向を避けて、日陰を意識的に選択したという結果が得られました。晩秋から早春の間では日向を選択する歩行者は増えましたが、日陰を意識的に避けるという結果は導かれませんでした。また、歩行者の性別による比較も行いました。12月から2月の期間を除き、女性は男性よりもペデストリアンデッキの日陰を選択した割合が高くなりました。

 これらの結果から梅雨の時期から秋分の頃まで、晴れた日の午後に多くの人は炎天下の暑さを避けるために日陰を求めて歩くと言えそうです。一方、冬の寒さを緩和するために多くの人が日向を好んで歩くことはないのかもしれません。女性が日陰を選んで歩く理由には、暑さ対策に加えて紫外線を防ぐことがあるのでしょう。

 視点を変えて気温と日陰を選択した歩行者数の関係について分析を行いました。その結果、気温が高くなると日陰を選択する歩行者数は直線的に増え、気温から日陰を選択する歩行者の割合を精度良く予測できることが分かりました。気温が30℃を超える晴天日では、8割以上の人が日陰を選択することが予測されます。

 このような天気の日に歩道に日除けを設けることができれば、多くの人が日陰を選んで歩いてくれるでしょう。結果として、人の流れをコントロールできたり、熱中症の予防策となったりするかもしれません。ただし、日陰の歩道が遠回りになる場合、選んでくれるのかは定かではありません。

【参考文献】

  1. Ishii, J. and Watanabe, S. 2015: Influence of outdoor thermal environment on shaded or sunlit walking path selection of pedestrian. The 9th International Conference on Urban Climate, 5pages.
  2. 石井仁,渡邊慎一 2018:夏期と秋期の野外音楽フェスティバル会場における暑熱ストレス評価ならびに来場者の対策行動調査,人間と生活環境,25(2),65/74

イラスト:井本 雅乃